Before Cyberspace Falls Down...

"Atoms for peace and atoms for war are Siamese twins” Hannes Alfven

Mitchell Zuckoff "13 Hours"

ベンガジで発生した2012年アメリカ在外公館襲撃事件について、ベンガジのCIA拠点の警備担当の”Operator”の視点から描く。

13 Hours: The Inside Account of What Really Happened In Benghazi

13 Hours: The Inside Account of What Really Happened In Benghazi

背景: 

リビヤは地中海に面する良港トリポリベンガジを有し、それ以来様々な権力から「北アフリカへの玄関」として侵入されつづけていた。1959年に世界の石油生産量の2%にあたる原油が確認されてから、この国自体に欧米の関心が集まるようになる。

リビヤは西のリビヤ、東のベンガジの2つの大都市をもつが、当時の政権は油田が東部にあるにも関わらず、リビヤに富を集中させ、ベンガジに対する施策を意図的に放棄した。結果リビヤーベンガジ間を結ぶ道路は整備が行き届かず、両都市を拠点とするプロサッカーチームの試合に関する疑惑などでリビヤとベンガジの関係は冷え込んでいた。このような背景からリビヤの中央政府ベンガジの地方政府、警察、軍隊を掌握しきれていなかった。

ベンガジでの米国の活動:

米国は2012年時点でリビヤに大使館をもち、ベンガジに拠点(Diplomatic Compound)を設けていた。これは大使館でも領事館でもない曖昧な位置づけの国務省の前線拠点であった。Compaundの中には公邸と警備詰所、また近くにはCIAの拠点(CIA Annex)が存在した。ベンガジで米国の外交官は人道支援などの活動を行っていた。CIAの拠点でどのような活動が行われていたかは本書では全く触れられていない。

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内政の不安、預言者ムハンマドを冒涜する映画の公開などにより、ベンガジの外交ミッションは襲撃される危険をつねに感じていた。

在外公館の物理的な警備はおもにU.S. Diplomatic Security Service(通称DS)の主管である。ベンガジにおいてはリビアの17 Feb Militiaという軍隊とDSがCompoundの警備を担当し、本書の主役であるOperatorsはAnnexの警備を担当していた。また当時トリポリからスティーブンス駐リビア大使を警備するためのDSが何名か同行していた。

Compoundへの襲撃:

2012/9/10 21:59に暴徒がコンパウドに侵入。警備が手薄だったことや、17 Febが管理している正面ゲートがなぜか開いていたことから暴徒は発砲することもなく、やすやすとCompaundに入る。そして大使と通信担当が寝ているVillaにガソリンをかけて火を放った。応戦すべき17 Febは不在。CompaundにいたDSは通信ルームと宿舎にいて応戦する間もなくCompaundは暴徒の支配下におかれる。

大使、DSはただちにトリポリに支援をもとめるが即応は不可能である。代わりに実戦経験豊富で装備の充実しているAnnexのOperatorsが救出に向かうことになる。しかしAnnex自体が襲撃される可能性、そしてAnnexにある機密を守ることの重要性から出動はなかなか許可されなかった。Operatorsは後にこの遅れがなければ被害を減らせたと振り返る。

Operators到着時に3名が燃え盛るVillaに閉じ込められており、彼らは通信員の遺体(火災による)を確保した。スティーブン大使は見つからなかったが、新たな襲撃に備えて、比較的警備の強固なAnnexへと退却する。

Annexへの襲撃:

その後11日未明から早朝にかけてAnnexも襲撃をうけ、合計3回の銃撃戦が行われた。Annexは塀も高く、事前に各ビルの屋上に武器・弾薬を用意していたこともあり、屋上からの応戦が効果的におこなわれ、最初の2回の攻撃を比較的簡単に退けた。暴徒はゼラチンとよばれる破壊力におとる爆弾とAK-47で武装し、練度が高いとは感じられなかったという。

Compound襲撃直後にUSAFRICOMが運用する無人機がベンガジをカバーする位置にうごかされたとあり、周辺の状況を俯瞰できる手段が整っていたとかんがえられる。イラクアフガニスタンでの戦闘を経験しているOperatorsが事態にあたってリクエストしたのが無人機のサポート(情報)とAC-130対地攻撃機(火力)だった。またここでTriporiから緊急に送られたDS7名が到着し、脱出の用意が始まる。

ところが3回めのAnnex北側からの攻撃でグレネード( Morters ) が用いられた。Mortorsは空中で爆発し中から細かい金属片をまき散らすもので、Building C屋上で警備にあたっていた3名のうちOperator1名が即死。その他2名が重傷を負う。

戦闘中に市民がCompoundで白人男性の遺体を発見し、近辺の病院にかつぎ込んだ。写真と確認に訪れた現地スタッフによって大使本人の遺体であると確認され、Annexに移送された。

ベンガジから脱出:

Annexから空港までの米国関係者エスコートの命をおびたリビヤ軍が到着し、約20名のアメリカ人が数台の車に分乗し空港にむかう。

外交官、CIAスタッフなどは空港からチャーターした民間機で脱出した。人数の関係で3名の遺体とOperatorsと数名のDSはリビヤ国軍の輸送機にのせられた。

感想:

Operatorsの証言が本書の中枢であり、事実とOperatorsの非常にヒロイックな独白が混在するのは致し方ない。

米国在外公館の警備の手薄さは非難されてしかるべきであるし、特に警備についてリビヤ政府や軍・警察が一切役に立っていなかったと本書は手厳しい。また米国人同士でもDSといういわば正規部隊とOperatorsという寄せ集め集団で様々な待遇の違いがあるというジレンマもみえてくる。ベンガジでの襲撃ではOperatorsの献身的な働きがなければ被害は更に深刻であったのだと思う。

不幸にも命を落とした大使は、本書に引用される日記の記述などをみるに、真に米国とリビヤの関係改善を目指していたと思われるだけに残念である。

さすがに保安のプロが携わっているので警備上の詳細は一切でてこない。

マイケル・ベイが監督して映画化されるという噂もある。そんなんじゃないと思う。。。