五島浩司 『アデン湾・ソマリア沖海賊対処行動を終えて』
アデン湾・ソマリア沖海賊対処行動を終えて - Webcat Plus http://webcatplus.nii.ac.jp/webcatplus/details/work/355976.html
ジブチ出張を前にソマリアの海賊とジブチについての予習のために『アデン湾・ソマリア沖海賊対処行動を終えて』という五島浩司氏(H21第一次派遣海賊対処水上部隊指揮官)の講演記録を読む。
海賊とアデン湾の実態
海賊は海賊行為をしているときにのみ海賊として扱える。たいていの海賊は漁業、人身売買、麻薬密輸などをあわせておこなっているため海賊行為の現場をおさえることは容易でない。特にスキフとよばれる小型船は上空からは海賊行為のためのものか、漁をしているのか判別しにくい。
p137に海賊と船を乗っ取られた人質の比較的リラックスした様子の写真がある。商船側は無駄な抵抗をせず、身代金を支払って早期に開放されることを望むため、人質になったからといって命の危険にさらされるというわけではなさそうだ。
アデン湾・ソマリア沖海賊対処行動を終えて, 137ページより引用
- 2009年はソマリア沖よりもアデン湾での海賊行為が多かった。1年で合計211件が確認されうち45件は海賊が乗っ取りに成功している。
- アデン湾を通過する船は約2万隻、そのうちのおよそ10%が日本関連の船である。
- 海賊が活動するアデン湾周辺(900km)を嫌って、喜望峰周りのルートを通るという選択肢もあるが、これは航路にして6000km、時間にして10日間のロスになる。(したがって商船は多少のリスクがあってもアデン湾を通行する)
- 期間中護衛したのは41回121隻。ただし他国の船籍の船からの護衛依頼に対しては「護衛対象に加えられない」とした上で、すぐ近くを航行するのを許した。このあたりは現場の柔軟な運用ということだろう。
ジブチ
- イスラム国家だが酒は飲める。野菜やミネラルウォーターで食あたりになる。
そのほか
- 現場を支えたのは護衛した船からもらった139通の感謝のメッセージだった。食堂などにはって、隊員の士気を高めた。
本書に収録された五百旗頭防大校長(当時)の話が面白い。士官学校交流を中国にもちかけたが中国内に21もの士官学校があり、防大の適切なカウンターパートがわからなかった。そこで外交部、国防部を経由して本丸の総参謀部に確認したところ、陸は人民解放軍理工大学(南京)、海は艦艇学院(大連)、空は航空大学(長春)が中心であるとの確認がとれたとのこと。 中心の指すところは定かではないが、いわゆる中心なのだろう。