Before Cyberspace Falls Down...

"Atoms for peace and atoms for war are Siamese twins” Hannes Alfven

薬師寺泰蔵「テクノヘゲモニー」

序章から切れ味がすばらしい。

以上みたように、技術は国家の安全保障を脅かす。そのことは、逆に言うと、国家は技術によって安全保障を確保する。さらにもっと強く言えば、国家は技術によってヘゲモニーを勝ち取ることが出来る。そして、同時に国家は技術によってヘゲモニーを失う。(p6)

気になった箇所: * 国際政治の3つの視角は力の均衡(Balance of Power)、 経済、そして技術である。 * 技術の伝播には「エミュレーション」が必要。エミュレーションは猿真似とは違う。模倣することに加えて「競争状態」もしくは「外部性」によるプラスアルファが加えられる * へゲモンとは覇権を持つ国家。それは必ずしも軍事的・武力的な覇権を持つ国ではない。 * 満州事変頃から日本は総てのエネルギーを軍事に投入し、優秀な人材は航空機製造や艦艇製造に駆りだされた。航空母艦、大型潜水艦、ゼロ戦などの軍事技術のイノベーションが花開いた。が民生産業力が落ち込んだ。

筆者はまたノエル・ペリン『鉄砲を捨てた日本人』から日本における鉄砲技術とその土台となる製鉄技術について解説を試みる。曰く: * 種子島は砂鉄の宝庫で、古来から製鉄技術を持っていた * 出雲のたたら製鉄が17世紀前後全国市場の7割の鋼を生産していた。この鋼をつかって堺や近江の国友村に有力な鉄砲鍛冶が生まれた

筆者は、日米貿易摩擦の背景とされた「日本の不正」を端緒に米国の技術的な隆盛の原因をリサーチした。そこから19世紀後半の米国の科学技術制度はドイツのコピーであり、元となったドイツの技術は英国の技術のエミュレーションであることを芋づる式に明らかにしていった。その研究プロセスがおもしろい。

薬師寺泰蔵門下の人に縁があったので読みなおしてみた。 技術が政治や安全保障を突き動かすのをサイバーセキュリティの分野で経験してきたが、振り返ればそれは歴史の常であり、構造自体に新しいところなどなにもないことを痛感した。