Before Cyberspace Falls Down...

"Atoms for peace and atoms for war are Siamese twins” Hannes Alfven

北条かや『キャバ嬢の社会学』

キャバ嬢の社会学 (星海社新書)

キャバ嬢の社会学 (星海社新書)

新進気鋭の社会学者によるキャバクラの研究。身近にある未知の世界を筆者を通じて経験できた気がして単純に面白かった。研究とはいえここまで自分をさらけ出す勇気は私にはない。

参与観察ともっともらしく言っても、覗き見・スパイであるという筆者が抱く感情はおそらく対象に深く入り込むほどに膨れ上がったに違いない。メンタル強いなと。

なお本書を通じてインタビューの対象となっているキャバ嬢と筆者には明確な立場の違い、情報量の違いがある。純粋に観察者と被観察者の関係である。 一方で店長のインタビューには雇用者と新人、指導する側と受ける側、売り飛ばす側と売り飛ばされる側の緊張感がみてとれる。加えて店長は言葉が明確で切れる人である。この研究が成立するにためには、言語化されていないルールを筆者の文脈に翻訳できる店長の存在が必要だったのではないだろうか。

次はAnne AllisonのNightworkを読んでみたい。とても面白そう。

Nightwork: Sexuality, Pleasure, and Corporate Masculinity in a Tokyo Hostess Club

Nightwork: Sexuality, Pleasure, and Corporate Masculinity in a Tokyo Hostess Club

以下、面白かったところ引用

p8

社会学的フィールドワークの面白さは、人類学のように外の世界へ出かけて行って「異文化」や「他者」を観察するのではなく、自分たちの生きる社会、すなわち「自己」を対象とする点にある。本書もまた、キャバクラ、そしてキャバクラ嬢となった私自身の変化のプロセスを、観察の対象としている。

p19

「結婚はカオとカネの交換だ」と看破した人がいる。心理学者の小倉千加子氏だ。これを聞いて「いや、違う。結婚は男女の愛のしるしなのだ」と真向から反論できる人は、どれくらいいるだろう。

p40

アリスンによるとホステスは、日本企業のサラリーマンが「男同士の絆」を強める役割を果たしてきた。

p205

キャバクラにおいて、もっとも重要なのは、客に「私はキャバクラ嬢である」「私はキャバクラ嬢でない」という矛盾したメッセージを理解させることだ。

p219

一方で、大学院という安定した場所からキャバクラを観察し、「私にとって有益なデータ」だけを盗みとり、論文にしてみせるという行為につきまとう罪悪感もあった。