Before Cyberspace Falls Down...

"Atoms for peace and atoms for war are Siamese twins” Hannes Alfven

Stuxnetは本当にイランの核兵器開発を遅らせたのか?

Are Cyber-Weapons Effective? Ivanka Barzashka (https://www.rusi.org/publications/journal/ref:A517E5BC42E13D/)

StuxnetがNatanzのウラン濃縮施設を狙ったことはよく知られている。また特に米国・イスラエル関係者によってこの攻撃によりイランの核兵器開発が「2年」「18ヶ月から24ヶ月」「5年以上」遅らせられたという発言がされている。*1

筆者は本論文においてIAEAの査察報告書に記載されるNatanzにおける遠心分離器の設置数・稼働数、濃縮性能について調べた結果、Stuxnetがイランの核兵器開発プロセスに与えた影響は軽微であると主張する。その上で、Stuxnetが多国間対話にもたらした負の影響を例示する。 全体としてStuxnetはイランの核兵器開発を遅らせることができなかったばかりでなく、外交安全保障対話の場においてイランを利する側面もあったとしている。

感想

Stuxnetが活動していた2009-2010年のイラン核兵器開発については、Stuxnetによる破壊活動の他にも経済制裁、輸出入規制、関係者の暗殺を含む活動など様々な因子があった。実際にウラン濃縮を遅らせるのにどの活動がどれだけ貢献したかは慎重に判断しなければいけないことである。 また技術者はStuxnetの使用したゼロデイ脆弱性の数、FlameのWindowsUpdate乗っ取りなど機能でそれぞれの活動の優劣を判断しがちである。しかしこれらを軍事作戦行動あるいは情報活動としてとらえた場合評価の軸は、作戦の目的にどれだけ貢献したかで判断されなければならない。

*1:逆にIAEAの査察官のように「Stuxnetの影響は限定的」という見方も存在する