Before Cyberspace Falls Down...

"Atoms for peace and atoms for war are Siamese twins” Hannes Alfven

海底ケーブルSEA-ME-WE3の障害について思うこと

画像は全てSubmarine Cable Mapより転載

今週SEA-ME-WE3という海底ケーブルがまた切れたインドネシア沖でのことである。

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SEA-ME-WE3の経路

漁船などによる事故なのか、自然災害なのか、人為的なものなのか理由はわからない。今回もインドネシア沖で、作業にインドネシア政府の許可が必要なため*1、復旧に時間がかかることがわかっている。昨年はなんと完全復旧までに5ヶ月かかった。

ケーブルの上を流れるインターネット通信は物理的な線がきれても自動的に最適な経路(ルーティング)を探す機能が備わっているため、ケーブルの1本や2本きれたところでインターネットが使えなくなるわけではない。いつもより多少遠回りするが、利用者である我々がきづくような変化はおきない。素晴らしい。

問題はどう迂回するか

問題はどう通信が遠回りするかである。遠回りに関しての制御がどのように行われているのかは門外漢の私にはわからないことが多い。ここからは全て推測の域を出ていない話と承知して読んでいただきたい。

同じ会社が同一区間を結ぶケーブルを持っていれば、そちらを使って通信をすることが多いのだという。実際今回切れてしまったSEA-ME-WE3はSEA-ME-WE4とSEA-ME-WE5という2つの別のケーブルを持っている。

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SEA-ME-WE4の経路

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SEA-ME-WE5の経路

これらのケーブルはフランスからシンガポールあたりまでをSEA-ME-WE3とほぼ同じように結んでいる。だからフランスの人がシンガポールの人にメールを送るときの経路はおそらく同じ会社の別のケーブルを通るようになるだけで大きな変化はないのだと予想する。

日本からインドへの通信は?

ではインドネシア沖の東にいる日本の我々が、西側にいるインドの人にメールをするとどうなるか? 今まではSEA-ME-WE3を通って直接インドに届いたのだが、今回は2つの迂回路が考えられる。*2一つは東京からアメリカ西海岸をとおり、つまり反対周りにインドまで届ける方法。もう一つはFLAG Europe-Asia(通称FEA)という似たような区間を通る別会社が運営するケーブルを使う方法である。

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FLAG Europe-Asia

効率が良いのはどう考えても、後者のFEAを通る経路である。しかしこのFEAは最近妙な疑惑がかけれれている。

Channel4の報道

Channel4というイギリスのテレビ局が2014/11/20に以下のような報道をした。要約すると現在Vodafone傘下のケーブルアンドワイヤレス社がイギリスの情報機関に協力して海底ケーブルのデータを取得しているというものだ。この報道をベースにした記事がGigazineにもあった

Spy cable revealed: how telecoms firm worked with GCHQ - Channel 4 News

報道が事実だとすればFEAという海底ケーブルを使うのはかなり気持ち悪い。しかしSEA-ME-WE3が切れている今我々に他の選択肢はないようだ。

SEA-ME-WEの受難

SEA-ME-WEはアルカテルというフランスを本拠とする通信企業や富士通などがコンソーシアムを組んでつくったケーブルである。ヨーロッパ側はフランスまでしかのびておらず、多くの海底ケーブルが集まるイギリスには接続していない。 そしてこのSEA-ME-WEは最近よく切れる。SEA-ME-WE3が2年連続できれただけでも大分不運といえるが、2013年3月にはSEA-ME-WE4を切断しようとした謎のダイバーがエジプト当局に逮捕されている。*3 この件がその後どう裁かれたのか、彼らの動機がなんであったのかについて報道がないようだ。

以上のような、不思議な不思議な状況をかんがえるに、SEA-ME-WEを使わせたくないと思う大きな力が働いていて、このケーブルは今後もときどき切れるのではないだろうかと、私は予想している。

結論:海底ケーブルはたいへんオモシロイ。

*1:海底通信ケーブルは長らく利用されてきたにもかかわらず、その保護や支配権に関連する国際法に曖昧な点が多い。そして現在のところ法律によって保護されるのは物理的な損害があった場合に限定される。つまり物理的な損害を与えない限り、盗聴器などを取り付けるなどの行為は国際法で禁じられていない。Peacetime Regime for State Activities in Cyberspace | CCDCOEのWolff Heintschel von Heinegg教授の論説に詳しい。

*2:衛星を使う、海底ケーブルではない陸上ケーブルをたどるという可能性もある

*3:Undersea internet cables off Egypt disrupted as navy arrests three http://www.theguardian.com/technology/2013/mar/28/egypt-undersea-cable-arrests