Before Cyberspace Falls Down...

"Atoms for peace and atoms for war are Siamese twins” Hannes Alfven

Joseph Nye "Cyber Power" (2010)

http://belfercenter.ksg.harvard.edu/files/cyber-power.pdf

先日来日していたJoseph Nyeのサイバー空間についての言説を確認していた。Nyeは国際政治の前線で早くからサイバー空間でのパワー(力?覇権?)に注目している。

要点

「Power*1」はコンテキストによって規定される。

そしてサイバー空間の急速な拡張は国際政治にとっての重要な新しいコンテキストである。参入コストの低さ、匿名性、脆弱さの非対称性は小規模な主体がハードパワー/ソフトパワーを、既存の伝統的な国際政治のドメインと比較して、より大胆に行使できる可能性をもたらす。

情報の変質は力に重要な影響を与えてきた。しかしサイバー空間は新しく、そして不安定な人工の空間である。サイバー空間の特質は国際政治のプレーヤ間の力の格差を減らし、そして今世紀の国際政治に典型的に表される力の分散の好例である。

強国はこの分野を海や空のような既存の分野同様に支配することは不可能と思われる。しかしサイバー空間は力の分散が力の平等化をもたらすものでも、もっとも力のあるプレーヤである政府のリプレースを図るものでもない。

感想

現在のサイバー空間においてティアワンとよばれるネットワーク同士を接続する事業者のほとんどが米国企業である。またハイパージャイアン*2と呼ばれるトラフィック転送量ランキング上位組織の発言力が増している。 つまり通信の大半は米国を経由している。それを踏まえると力が分散するという言葉が意味するのは、米国のもつ力が弱まるという意味でなく、米国内で政府から民間事業者に力が移っていくという意味で捉えるのが自然である。

*1:Powerの定義について本論では、代表的な3つの面についてRobert DahlのFace of power, Peter BachrachとMorton Baratzのsecond face of power, Steven Lukesの定義の3例と著者自身のSoft Powerについて例としてあげている。

*2:例:アカマイ、コムキャスト、グーグル、フェイスブック、ライムネットワークスなど