Before Cyberspace Falls Down...

"Atoms for peace and atoms for war are Siamese twins” Hannes Alfven

Regin Stage 1 by F-Secure

F-SecureによるReginの解析結果。 最近のマルウェアを使った攻撃は端緒づくりのステージ、感染を広げるステージ、データを外に持ち出すステージとステージにわけて用途に応じて別のマルウェアを使う。フランス料理のフルコースを考えていただくと想像しやすいかもしれない。

本文書で解析/解説されているのは、フルコースでいえばオードブルにあたる部分の27種類のファイルである。 https://www.f-secure.com/documents/996508/1030745/w32_regin_stage_1.pdf

トランポリンメカニズムとF-Secureが呼ぶ、高度に検知が難しい細工がほどこされている。

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電話会議

今月は週1-2回ペースで夜11時からの電話会議がある。 それにしても英語って本当に難しい。英語は結構頑張って勉強してきたし、いまもしている。 海外からのお客さんたちのように僕を日本人だと思って接する人との会話は不自由をあまり感じない。

問題はプロジェクトの同僚10人で同じ立場として議論する場合だ。 誰かが特別偉いわけでない横並びの人間関係のなかで組織としての意思決定をしなければならない。 そのためには言葉を丁寧に選んで、説得力ある主張を展開しないと相手にされない。

こちとら夜中の12時で横では家族が寝ているというのに喧々諤々の議論を戦わせるのはきつい。

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警察(いわゆる)ノンキャリアの出世について

また自分の研究には全く関係ないけど、面白い論文みつけた。

小林良樹「道府県警察の最高幹部のリーダーシップ形成~総務部長の昇進パターンの理論的分析~」

本稿で、筆者は慣例上ノンキャリの最高ポストとされている道府県警察本部の総務部長についた人物の経歴を分析している。結果そこに①警察署長経験②警察本部総務・警務部経験の長さ③警務課長・首席監察官・各課筆頭課長の経験の有無という共通点を見出した。

そして警察という特殊な組織に限らない一般論として、リーダーへと成長するためには「一皮むける経験を通して」経験から学習する能力が大切であるとする。 一皮むける経験の具体例としては3つのパターンがあげられている。

  • 横方向の視野を広げる: 他部署・他分野への異動、他組織出向、海外赴任
  • 縦横に視野を広げる: 組織改革や組織の大きな戦略策定など組織全体を俯瞰する業務
  • リーダーとして胆力をつける: 子会社・支店などの最高幹部として組織を引っ張る業務

筆者は、上記のパターンが警察にもあてはまるということを、道府県警察の最高幹部の経歴が示しているとする。

たしかに警察署長は一国一城の主でそのポストが成長させそうである。しかし警察関係者でない私には首席監察官という業務が上のどれにあてはまるのかピンとこなかった。その点について筆者の解説はこうだ

監察官は主に部内の不祥事案の処理などを担当するポストである。かかる業務は組織の危機管理的な業務でも有り、一つでも対応を誤ると組織に対するダメージが非常に高い繊細な業務でもある。したがって、当該ポストの勤務経験は、(中略)やはり「従来の自分の経験を超える判断を責任をもって行うことを求められる経験」、すなわち「胆力」を鍛える経験となる場合が少なく無いと考えられる。

筆者の調査によると34%がこの首席監察官の経験を経て総務部長となっているという。営利企業で監査室長やお客様相談センター長がその後に重要ポストにつくという例はあまり聞かないように思う。 首席監察官という聞きなれないポストの重要性、ひいては警察組織における不祥事対応の重要さが本論で最も印象的だった。

本論は見方によっては(道府県)警察組織は、「もとより正しい資質をそなえた立派な人物を首席監察官に据え、組織全体の綱紀を正すことを怠たらない素晴らしい組織」とも言えるし、「不祥事をうまく処理して組織をまもった人物が出世する内向き組織」とも言えるなと思った。

自衛隊の警務隊のトップも同様に重要なポストであるか?興味がわいてきた。

外務省の出世レースに関する論文 - Before Cyberspace Falls Down...

息抜き: 図書館の本に挟まっていたレシート

図書館の本には奥付に貸出履歴がスタンプされていて、その本がそれまでどれだけ多くの人に読まれたかがうかがい知れておもしろい。

今日よんでいた本ににしおりがわりにレシートが挟まっていた。

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日吉キャンパスに所属する学部の2年生が、サークル終わってご飯でも食べて帰ったのだろうか。一人は巨峰サワーでもう一人はグレープフルーツジュースということはカップルなのかな? とにかくそんな大学生の気楽な晩餐が2011年3月5日に日吉の庄やで繰り広げられていたのだろう。 その約1週間後には日本を大地震が襲うことなんてもちろん知らずに。

記録映画 太平洋横断ケーブル 1964年

Youtubeでたまたま発見。今のKDDIによる太平洋横断海底ケーブルの敷設プロジェクトの紹介。面白かった。映画では言及されていないがこの時代にはすでに太平洋を横断するケーブルがいくつか敷設されていたのでは? 大手町の機器は全て国産というあたりはさすがである。

1964 記録映画 太平洋横断ケーブル - YouTube

背景

短波による国際通信は、各国に割り当てられた周波数帯が使い切られ、1962年に太平洋横断海底ケーブルの敷設プロジェクトが開始された。

敷設経路

サンフランシスコーハワイ間は既設のものを利用。ハワイーミッドウェーーウェークーグアムー日本というケーブルを敷設する 海上保安庁水路部が協力。海の深さは音響測深機で図る。海底の泥をいたるところで採取

陸揚げ

日本での陸揚げ局は相模湾二宮付近に設けられた。そこから東京都内のKDDターミナル局とは2つの回線で結ばれた。 一つはNTTのケーブルで東京ー小田原をつなぎ、小田原と二宮を接続するルート。もう一つはマイクロウェーブで東京ー多摩ー吉沢を結び吉沢と二宮を地下ケーブルでつなぐルート。 ターミナル局、クロスバー交換機が都内におかれ、海底ケーブルを収容。地下の通信を制御するセンターの機械は全て国産。

海底ケーブル

約2700kmの海底ケーブルは新設の大洋海底電線社の工場で作られた。寿命は20年。 41本の鋼線がよられた芯線の外を何重につつんだ直径32mmのケーブル。これ1本で電話128回線分が同時に伝送される。 37kmごとに中継器がつけられ、信号を増幅した。

敷設作業

1964年3月にロングライン号は相模湾を出発し、4-8ノットで敷設をおこないつつ航行

開通:

当時の池田総理とジョンソン大統領の国際電話などの派手なセレモニーが行われた。

海底ケーブルSEA-ME-WE3の障害について思うこと

画像は全てSubmarine Cable Mapより転載

今週SEA-ME-WE3という海底ケーブルがまた切れたインドネシア沖でのことである。

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SEA-ME-WE3の経路

漁船などによる事故なのか、自然災害なのか、人為的なものなのか理由はわからない。今回もインドネシア沖で、作業にインドネシア政府の許可が必要なため*1、復旧に時間がかかることがわかっている。昨年はなんと完全復旧までに5ヶ月かかった。

ケーブルの上を流れるインターネット通信は物理的な線がきれても自動的に最適な経路(ルーティング)を探す機能が備わっているため、ケーブルの1本や2本きれたところでインターネットが使えなくなるわけではない。いつもより多少遠回りするが、利用者である我々がきづくような変化はおきない。素晴らしい。

問題はどう迂回するか

問題はどう通信が遠回りするかである。遠回りに関しての制御がどのように行われているのかは門外漢の私にはわからないことが多い。ここからは全て推測の域を出ていない話と承知して読んでいただきたい。

同じ会社が同一区間を結ぶケーブルを持っていれば、そちらを使って通信をすることが多いのだという。実際今回切れてしまったSEA-ME-WE3はSEA-ME-WE4とSEA-ME-WE5という2つの別のケーブルを持っている。

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SEA-ME-WE4の経路

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SEA-ME-WE5の経路

これらのケーブルはフランスからシンガポールあたりまでをSEA-ME-WE3とほぼ同じように結んでいる。だからフランスの人がシンガポールの人にメールを送るときの経路はおそらく同じ会社の別のケーブルを通るようになるだけで大きな変化はないのだと予想する。

日本からインドへの通信は?

ではインドネシア沖の東にいる日本の我々が、西側にいるインドの人にメールをするとどうなるか? 今まではSEA-ME-WE3を通って直接インドに届いたのだが、今回は2つの迂回路が考えられる。*2一つは東京からアメリカ西海岸をとおり、つまり反対周りにインドまで届ける方法。もう一つはFLAG Europe-Asia(通称FEA)という似たような区間を通る別会社が運営するケーブルを使う方法である。

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FLAG Europe-Asia

効率が良いのはどう考えても、後者のFEAを通る経路である。しかしこのFEAは最近妙な疑惑がかけれれている。

Channel4の報道

Channel4というイギリスのテレビ局が2014/11/20に以下のような報道をした。要約すると現在Vodafone傘下のケーブルアンドワイヤレス社がイギリスの情報機関に協力して海底ケーブルのデータを取得しているというものだ。この報道をベースにした記事がGigazineにもあった

Spy cable revealed: how telecoms firm worked with GCHQ - Channel 4 News

報道が事実だとすればFEAという海底ケーブルを使うのはかなり気持ち悪い。しかしSEA-ME-WE3が切れている今我々に他の選択肢はないようだ。

SEA-ME-WEの受難

SEA-ME-WEはアルカテルというフランスを本拠とする通信企業や富士通などがコンソーシアムを組んでつくったケーブルである。ヨーロッパ側はフランスまでしかのびておらず、多くの海底ケーブルが集まるイギリスには接続していない。 そしてこのSEA-ME-WEは最近よく切れる。SEA-ME-WE3が2年連続できれただけでも大分不運といえるが、2013年3月にはSEA-ME-WE4を切断しようとした謎のダイバーがエジプト当局に逮捕されている。*3 この件がその後どう裁かれたのか、彼らの動機がなんであったのかについて報道がないようだ。

以上のような、不思議な不思議な状況をかんがえるに、SEA-ME-WEを使わせたくないと思う大きな力が働いていて、このケーブルは今後もときどき切れるのではないだろうかと、私は予想している。

結論:海底ケーブルはたいへんオモシロイ。

*1:海底通信ケーブルは長らく利用されてきたにもかかわらず、その保護や支配権に関連する国際法に曖昧な点が多い。そして現在のところ法律によって保護されるのは物理的な損害があった場合に限定される。つまり物理的な損害を与えない限り、盗聴器などを取り付けるなどの行為は国際法で禁じられていない。Peacetime Regime for State Activities in Cyberspace | CCDCOEのWolff Heintschel von Heinegg教授の論説に詳しい。

*2:衛星を使う、海底ケーブルではない陸上ケーブルをたどるという可能性もある

*3:Undersea internet cables off Egypt disrupted as navy arrests three http://www.theguardian.com/technology/2013/mar/28/egypt-undersea-cable-arrests

ネトウヨがこのまま増加すると

今週は地球の反対側にきている。

「国益に反して何が悪い?」池上彰が朝日叩きとネトウヨの無知を大批判! |LITERA/リテラ 本と雑誌の知を再発見

上の池上彰のスタンスは素晴らしいと思う。

ネトウヨの増加はいろいろな側面で悩ましい。

ネトウヨの脳内にある「素晴らしい日本」のイメージと今後の日本の実態との格差は今後ますます広がる。現実を直視する勇気がないから過去にすがるしかないのだろう。自らの状況を客観的に判断できない状況が危険であることは、日露戦争後の日本がよい例だと思う。

あの時メディアは連日にわっって日本軍大勝利と報道を続けた。結果、国民は講和条約を結ぶにあたり大勝利に見合う報酬を期待してしまった。政府も国民の期待を背中に感じざるを得なかった。今振り返れば、辛勝のレベルであったのにである。そしてこの講和条約の条件にかんする国民の不満が、日本の拡大路線の下地になった。

極限すれば日露戦争時にその状況を国民が正確な状況把握をしていれば泥沼の戦争に突入することはなかったのかもしれない。少なくともその可能性は低くなっていた。無知とはおそろしい。

この記事にある池上さんの言葉*1はどれもしごく真っ当である。真っ当な発言が、物珍しさをもってメディアに取り上げられるところに日本の今後の危うさを感じざるを得ない。

*1:一次情報をあたってないから真偽不明だけど

息抜き: インターネットはセックスのようなもの

インターネットの父と称されるVint Cerf*1がとある賞の授賞式でこう言ってた。

Internet is like "Sex"! You can get enough of it. インターネットはセックスのようなものだよ!やってもやっても飽きないよね。

嘘だと思ったら下の動画をみてほしい。

Vint Cerf - INTERNET HALL of FAME PIONEER - YouTube

真面目な話、インターネットのごく初期段階にPlayboy.comが全世界に及ぼした影響力(インターネット使って画像みてみたい!!!)は計り知れない。全世界を流れるトラフィックの決して少なくない割合はおそらくアダルトコンテンツだ。

ビント・サーフの言葉は過激なように聞こえて、実はインターネットはセックスそのものって言い切ってもいい気がしてきた。

*1:今はGoogleのおしゃれな広報マン

防衛調達基盤整備協会「カウンターインテリジェンスの最前線に位置する防衛関連企業の対策について 」

財団法人防衛調達基盤整備協会. (2009). カウンターインテリジェンスの最前線に位置する防衛関連企業の対策について. https://www.bsk-z.or.jp/kakusyu/pdf/22-3tyousakennkyuu.pdf

主に米国と日本のケーススタディを通して、日本のカウンターインテリジェンス(CI)をどう強化するかというテーマで書かれている。

 おもしろかったとこ

Infraguardの実態(p3-13)について、「FBIにおける捜査活 動の円滑化を図るため、利用可能なインテリジェンス情報を共有すること」と看破しており、積年の疑問がちょっと軽くなった気分がする。

特筆すべきはCIと情報セキュリティの違いについて、本報告書をかいた人物が鋭く切り込むあたりである。(p1-29) 筆者は情報セキュリティとCIが混同されがちであり、かつ情報セキュリティによってCIが不要となるという予想される批判に対して、その類似性を素直に認めたうえで以下の様に説明する。

・情報保護のための技術的セキュリティ機能:CI と情報セキュリティの機能は全く同じである。

・ 対象とする脅威:CI は外国又は国内の敵体性勢力に限定しているが、情報セキュリティにおける脅威はリスク管理の一環としての決定事項とされており、一般的には 敵体性勢力を脅威対象外としている。

・守るべき情報資産:CI と情報セキュリティの両者とも、重要情報資産を守るべき情報資産としている。ただし、CIが対象とするのは国家的見地からの重要情報資産であり、情報セキュリティが対象とする重要資産は個々の組織の決定に委ねられている。

・国家と組織の関係:国家が重要情報資産であるとした情報を個々の組織が保管している場合、国家はそれを守るべき資産であるとして、当該組織と資産の保護に関して何らかの関係を構築することになる。

 感想

  • 書いた人、多分警察系だろうけど、ちょー頭いいわー。かつまじめ。多分レポート執筆グループが早晩このブログをチェックするであろうことを見越して先に書いとく。「いろいろご教示願いたい」
  • この報告書だと米国をお手本にしてCI強化を図るのが最善の道にみえるが、ドイツ連邦情報局モデルの方が日本の制度と相性いいんじゃないのだろうか。

test from android


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なかなか疲れた。仕事相手が世界中に散らばっていると、会議時間の調整だけで一仕事ですわ。

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サイバーセキュリティは泥棒と警察か?健康問題か?戦争か?

Wolff, J. (2014). Cybersecurity as Metaphor: Policy and Defense Implications of Computer Security Metaphors. 2014 TPRC Conference Paper, 1–16.

Cybersecurity as Metaphor: Policy and Defense Implications of Computer Security Metaphors by Josephine Wolff :: SSRN

概要

サイバーセキュリティの説明には度々メタファーが用いられる。代表的な例としてサイバーセキュリティ問題を泥棒にたとえるもの、戦争に例えるもの、健康に例えるものがある。

本論ではそれぞれのメタファーについて検討した上で、メタファーの選び方がその社会問題の解決方法に影響を与えることを指摘する。そして3つの代表的なメタファーに優劣はないとする。 一方で3つのメタファーはそれぞれにサイバー空間を不正確に語るリスクをはらんでいる。

  • 健康メタファーの場合、サイバー空間における悪意をもった攻撃者について説明がむずかしい。
  • 泥棒メタファーの場合、サイバー攻撃の手口や攻撃の源の難しさを説明できない。
  • 戦争メタファーの場合、人命への危険を誇張しすぎ、防衛手段の過激化を招くおそれがある

筆者はメタファーの乱用を抑制し、サイバーセキュリティの事象は病気と同じようにメタファーがなくとも説明すべきであるという立場をとる。

感想

特にサイバーセキュリティについて詳しくない聞き手が想定される講演などで、私自身も健康や泥棒のアナロジーで説明をしていた。アナロジーを使うことは本質的に誤解を与える危険をはらんでいて、時間が許す限りで、事象をそのまま説明する必要があるということ。

根気が求められることではある。

Joseph Nye "Cyber Power" (2010)

http://belfercenter.ksg.harvard.edu/files/cyber-power.pdf

先日来日していたJoseph Nyeのサイバー空間についての言説を確認していた。Nyeは国際政治の前線で早くからサイバー空間でのパワー(力?覇権?)に注目している。

要点

「Power*1」はコンテキストによって規定される。

そしてサイバー空間の急速な拡張は国際政治にとっての重要な新しいコンテキストである。参入コストの低さ、匿名性、脆弱さの非対称性は小規模な主体がハードパワー/ソフトパワーを、既存の伝統的な国際政治のドメインと比較して、より大胆に行使できる可能性をもたらす。

情報の変質は力に重要な影響を与えてきた。しかしサイバー空間は新しく、そして不安定な人工の空間である。サイバー空間の特質は国際政治のプレーヤ間の力の格差を減らし、そして今世紀の国際政治に典型的に表される力の分散の好例である。

強国はこの分野を海や空のような既存の分野同様に支配することは不可能と思われる。しかしサイバー空間は力の分散が力の平等化をもたらすものでも、もっとも力のあるプレーヤである政府のリプレースを図るものでもない。

感想

現在のサイバー空間においてティアワンとよばれるネットワーク同士を接続する事業者のほとんどが米国企業である。またハイパージャイアン*2と呼ばれるトラフィック転送量ランキング上位組織の発言力が増している。 つまり通信の大半は米国を経由している。それを踏まえると力が分散するという言葉が意味するのは、米国のもつ力が弱まるという意味でなく、米国内で政府から民間事業者に力が移っていくという意味で捉えるのが自然である。

*1:Powerの定義について本論では、代表的な3つの面についてRobert DahlのFace of power, Peter BachrachとMorton Baratzのsecond face of power, Steven Lukesの定義の3例と著者自身のSoft Powerについて例としてあげている。

*2:例:アカマイ、コムキャスト、グーグル、フェイスブック、ライムネットワークスなど

Lessig "The Laws of Cyberspace Draft 3" (1998).

https://cyber.law.harvard.edu/works/lessig/laws_cyberspace.pdf

この世界をregulate(規制・管理)するものが4つある。

  • Law(法律)
  • Social Norm(社会規範)
  • Market(市場)
  • Architecture (構造物)

既存の社会は法律だけによってコントロールされているわけではなく、前述4つの組み合わせによって形作られている。サイバー空間はどうか?

レッシグはArchitectureの重要性を強調する。サイバー空間においてはArchitectureではなくCodeと呼ぶ。具体的にはソフトウェア、ハードウェアのコードであり、通信プロトコルなどである。

まだインターネットに牧歌的な雰囲気があった1990年台にサイバー空間に自由が保証されているわけではないと見抜いたのはすさまじい。

北条かや『キャバ嬢の社会学』

キャバ嬢の社会学 (星海社新書)

キャバ嬢の社会学 (星海社新書)

新進気鋭の社会学者によるキャバクラの研究。身近にある未知の世界を筆者を通じて経験できた気がして単純に面白かった。研究とはいえここまで自分をさらけ出す勇気は私にはない。

参与観察ともっともらしく言っても、覗き見・スパイであるという筆者が抱く感情はおそらく対象に深く入り込むほどに膨れ上がったに違いない。メンタル強いなと。

なお本書を通じてインタビューの対象となっているキャバ嬢と筆者には明確な立場の違い、情報量の違いがある。純粋に観察者と被観察者の関係である。 一方で店長のインタビューには雇用者と新人、指導する側と受ける側、売り飛ばす側と売り飛ばされる側の緊張感がみてとれる。加えて店長は言葉が明確で切れる人である。この研究が成立するにためには、言語化されていないルールを筆者の文脈に翻訳できる店長の存在が必要だったのではないだろうか。

次はAnne AllisonのNightworkを読んでみたい。とても面白そう。

Nightwork: Sexuality, Pleasure, and Corporate Masculinity in a Tokyo Hostess Club

Nightwork: Sexuality, Pleasure, and Corporate Masculinity in a Tokyo Hostess Club

以下、面白かったところ引用

p8

社会学的フィールドワークの面白さは、人類学のように外の世界へ出かけて行って「異文化」や「他者」を観察するのではなく、自分たちの生きる社会、すなわち「自己」を対象とする点にある。本書もまた、キャバクラ、そしてキャバクラ嬢となった私自身の変化のプロセスを、観察の対象としている。

p19

「結婚はカオとカネの交換だ」と看破した人がいる。心理学者の小倉千加子氏だ。これを聞いて「いや、違う。結婚は男女の愛のしるしなのだ」と真向から反論できる人は、どれくらいいるだろう。

p40

アリスンによるとホステスは、日本企業のサラリーマンが「男同士の絆」を強める役割を果たしてきた。

p205

キャバクラにおいて、もっとも重要なのは、客に「私はキャバクラ嬢である」「私はキャバクラ嬢でない」という矛盾したメッセージを理解させることだ。

p219

一方で、大学院という安定した場所からキャバクラを観察し、「私にとって有益なデータ」だけを盗みとり、論文にしてみせるという行為につきまとう罪悪感もあった。

ジェフリー・T. リッチェルソン 『世界史を動かすスパイ衛星』

世界史を動かすスパイ衛星―初めて明かされたその能力と成果

世界史を動かすスパイ衛星―初めて明かされたその能力と成果

米国の偵察衛星について、旧ソ連や米国内での政治的な駆け引きを描きつつも、技術的な内容を主に振り返った本。KH-4aからKH-11の活動について特に詳しい。江畑 謙介氏によって加えられた1章が門外漢をこの分野に招き入れる役割を巧みに果たしている。

感想

本書で明らかなのは、米国が一つの偵察衛星の使用を辞める場合には、新しい高性能の衛星がすでに稼働しているということである。したがって無人シャトル「X-37B」がおよそ2年宇宙で何をしていたかは分からないが、その役割を補う何かがすでに宇宙を飛んでいるのであろう。

偵察衛星はいくつかの技術刷新を経て大幅に進歩したものの、やはり屋根の下で起きていることはわからないという性質を抱えている。サイバー空間においては大雑把な傾向がわかるだけでなく、メール・電話の中身まで見えてしまう。サイバーと宇宙は違うというべきか。

興味深い点メモ

  • 1994年湾岸戦争時点で米国がもつ偵察衛星はKH-11が3基、発達型KH-11が2基、ラクロスレーダー衛星が1基、および確認がとれていないがもう一つの発達型KH-11の合計7期
  • 対するロシアはフィルム回収型とデジタル映像型を併用しているが数は少ない。イラクのクェート侵攻の翌日にコスモス2089が、その後8/31にコスモス2099が打ち上げられており、有事の際の対応が早い。
  • 8・19クーデターで緊張が高まる中、ソ連戦略ロケット軍最高司令官のY・P・マキシモフ大将は、衛星による監視の存在を前提にして、配備されていたICBMを呼び戻し、米側への核攻撃の意図がないこと、軍隊の統制に乱れがないことを見せた。このため米軍は緊急警戒態勢に入らず、緊張のエスカレーションが起こることがなかった。偵察衛星によって緊張緩和が実現された好例としてP35に紹介されている。
  • 偵察衛星には光学観測(フィルム、CCD)、赤外線観測などが用いられ、1980年台からは希少に左右されないレーダー映像(磁気?)が導入された。
  • 偵察衛星の限られたリソースを戦略情報収集にあてるか、戦術情報収集にあてるか、調整のためにCOMIREX(映像要求及び利用委員会、1967年設置)が大きな役割を果たした。

NPIC(国家写真解析センター)をめぐる駆け引き

1960年に各軍、情報機関が独立しておこなってきた宇宙からの写真撮影と解析を集約す「NPIC(国家写真解析センター)」の必要性が米国政府内に広く認識されたものの各軍、NSA、CIA、国務省の主導権争いが行われ、裁定はNSCに諮られることとなった。

その席でジョージ・キスチアコウスキー(アイゼンハワーの科学顧問)は「この分野では科学の知識をもって、最後まで仕事をやり遂げる人間が必要である」とし、軍人が運用するセンターでなく文官が運用するセンターとする方向性を打ち出した。結果アレン・ダレスCIA長官がトップ、その下に海兵隊大将が指名された。

偵察衛星に対する欺瞞技術

1979年のNSCの報告書によるとソ連が用いた欺瞞技術は以下のとおり

  • 破砕迷彩塗装(1964):ICBM基地を火災が起きたかのような塗装をする。
  • 色調調合(1964):ミサイルを適当な色で塗装する
  • 偽の道路と発射基地(1966): 爆撃機のパイロットを混乱させることを目的に
  • 衛星警報システム(1966):アメリカのSATRAN(衛星偵察事前警報)のソ連版で軍の指揮官にアメリカの偵察衛星が上空にある時間を警告
  • ミサイルカバー(1967):ミサイルを隠す目的で使用されるカバー
  • 潜水艦用トンネル(1967):探知をさけるために20隻以上の核兵器搭載潜水艦を隠せる沿岸トンネルを海軍基地に建設
  • 潜水艦用カバー(1970):潜水艦をカバーし、搭載作業中のミサイルを隠す ダミー潜水艦(1971):潜水艦の形をしたバルーン。暴風のあとで折れ曲がっているのが確認されている
  • 夜間実験(1973):移動式のミサイルのテストは夜間に実施された
  • 鉄道側線の隠蔽(1973): 生産工場に出入りするミサイルやその他の装備を隠すために、側線を引く。

ミサイルの命中精度について偽情報をながすため、テストで発射した際の着弾でできた穴をうめて、別の場所に穴を掘るなどの駆け引きも行われていた。

中ソ国境紛争

1964年の中ソ秘密会談で中国側はロシア皇帝と清朝が締結した国境条約への不満を表明した。バイカル湖の東の地域はもともと中国皇帝が統治していた。中国の圧力にソ連は極東外交・防衛政策を見直した。1966年1月のモンゴルとの新しい防衛条約締結はその代表例である。この条約により、モンゴル国内にソ連軍が駐留を再開し、1967年初期にはその数は10万近くとなった。

情報の保全

1978年、CIA職員のウィリアム・カンパイルズは在ギリシアソ連大使館にコンタクトし、KH-11のマニュアルを3000ドルで手渡した。モチベーションは個人的な冒険心のように思われる。

1984年のJane's Defence Weeklyに掲載されたのはKH-11の写真で、職員サミュエル・L・モリソンが持ちだした。内部からの情報流出が問題点なのは今とかわらない。

http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/1/18/KH-11-best-SHIPYARD.jpg

偵察衛星と信頼醸成について(P.341より)

”安全保障には相互の不信を取り除く、信頼醸成が不可欠である。そこには情報の公開性が大きな効果を発揮する。もしアジアで衛星を使用した国際的軍備管理/条約査察機構が設置されれば、平和の維持に大きな力となることができよう。”